LAND ROVER STYLE CHANNEL
その感性を手のひらに、優雅な冒険がはじまる
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どんなに磨いても
このレンジローバーにはかなわない

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どんなに磨いても、このレンジローバーにはかなわない

 

 
 
 

 少し前のロンドン滞在中でのことです。
 ロンドンのマリルボーン駅から電車に乗って、北西へ約250km。ひとり僕は、ランドローバー製造工場のあるソリハル駅を目指しました。
 
 電車の乗り換えがあり、途中駅のプラットホームでのこと。ホーム背中の柵の向こうが駐車場になっていました。
 ふと振り返ると、僕の真後ろに、写真のように2ドアのクラシックレンジローバーが駐車していたのです。1970年代モデルのこの色名はTUSCAN BLUE(トスカーナブルー)。イタリアのワインの美味いトスカーナ地方の青空なのか、トスカーナの海の色なのか、ナチュラルで透明なブルーです。どんよりとした曇りの日が多いイギリスには、より映える青に思えました。
 
 ボディを見ると、決してピカピカに磨いて乗っているのではなく、リアゲートもバンパーも相当錆びています。しかし、開閉の度に手で触れる取手部分は綺麗なままです。
 そして、さらにじろじろと見ると、助手席シートになにやらランドローバーの純正パーツの箱が袋に入っているのが見えました。どこかが壊れたための交換予定のパーツなのか、単にオイルフィルターなのかは分かりませんが、きっとオーナーさんは自分のガレージで油まみれになって、自分で交換をするのだろうなぁ、なんて想像をしました(40年以上前のクルマの純正パーツがちゃんとあるのも凄いですね)。
 日本でも数回だけ、この色のピカピカに塗装し直された新車のような2ドアのレンジローバーを見かけたことがありますが、何かが大きく違うのです。到底かなわない美しさを感じました。
 それは「許容しながら、長く付き合う愛の美しさ」。
 それです。


 
 興奮冷めやらぬまま、数分後まもなく、乗り換えの電車が来てソリハル駅へ行きました。
 多くのランドローバー車が製造されてきた本社ソリハル工場へ到着。そう、先ほどのトスカーナブルーの2ドアタイプが、1970年代に製造された工場でもあるわけです。
 敷地内には、最新の4代目やスポーツ、そのほかまだナンバーの付いていない新車で未登録のレンジローバーが、ずらりと整然と、何十台も並んでいました。これから世界中のファンへ、ナンバーが付けられ納車されるのでしょう。
 けれど、その様子は、先ほど見かけた40年前のレンジローバーのように、歴史が刻まれることなど想像もできないほど、整然とした風景でした。
 時代を超えていくクルマとは、メーカーが作るというよりオーナーが作っていくのでしょう。忘れぬこの日は、僕はレンジローバーがなんでこんなにも好きなのかが、心で理解できた日でした。