OVER 10 YEARS
「分単位の精度」の生活が実は丁度いい。
僕たちは機械式時計が好き
「丁度いい」ってどういうことだろうと考える時に、時計を例にするとわかりやすいかもしれないですね。レンジローバーオーナーの皆さんは、機械式時計が好きな方が多い。
SEIKO LoadMarvel 1958製 今でも変わらぬ時を刻んでいます。
私達日本人はおそらく世界で一番時間に厳しい民族だと言われています。なのにどうしてみんなデジタルの時計をしないんだろう?
今の電波時計なんか基本的に「時間が狂う」なんてことは考えることができません。世界を飛び廻るビジネスマンなら時差の調整もする必要がない。腕につけているだけ。メインテナンスも基本的に必要がありません。こんな便利なものなのに。
「クロノス」は時の神様の名前
ギリシア神話の時間の神様はクロノスという名前です。SEIKOはその神様の名前の時計を1958年に発売しました。時を正確に刻むという意味があるんでしょうね。クロノスという言葉はクロノメーターの語源になっています。当時のSEIKOクロノスは厳密な意味でのクロノメーターではありませんでしたが、昔から時を正確に刻む時計は人類の憧れの的だったのでしょう、クロノスという名前はそれを物語っているようです。後にSEIKOはクロノスとLoadMarvel(写真)をベースにして、稀代の銘器GRANDSEIKOを生み出すことになります。
Rolex ref.6263 1972年製 3rdレンジにはメタルバンドの時計が 似合います。
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「正確な時」への憧れ
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実はギリシャア神話のクロノスはもともと農耕の神様なんです。季節の移ろいを正確に知ることは農耕民族にとっては死活問題になります。この頃の人々が求めた時間の正確性はきっとカレンダー単位だったのでしょう。
時代は下って大航海時代に太陽の位置と時刻から船の現在地を知ることが死活問題になりました。波の影響を受けない時計にマリン・クロノメーターの称号が与えられるようになります。この頃人々が求めたのは恐らく30分単位の精度だったと思います。
こうして正確な時計にはクロノメーターという称号が与えられるようになりました。1939年のことです。鉄道が走り人々は分単位の正確性を求めるようになります。OMEGAの傑作コンステレーションシリーズの裏蓋にグリニッジ天文台の刻印が施されているのを見ても正確な時への人類の憧れを感じます。
OVER 10 YEARS
「時計」に拘束され始めた生活
1日に数秒単位でしか狂わない時計が次々に開発されるようになると、時計は他の機能性を帯びるようになります。ROLEXがオイスターケースを発明し、深海でも耐えうる防水性と堅牢性を時計は獲得します。ミルガウスは防磁性という特殊な機能を獲得します。人類が飛行機を手に入れた頃には、更に多機能な時計が開発されます。BREITLINGのナビタイマーなどはその代表選手ですよね。軍用には単純で壊れにくく視認性の良いものが開発されます。パネライの大きなフェイスはそれが起源になっています。
人類が日差数秒単位の精度を当たり前に実現することが出来る時代になって、機械式腕時計は精度以外の機能性を追求するようになりました。そして1970年以降に安価で正確なクオーツが発売されるようになっても機械式腕時計を愛し続ける人は一定数ずっと存在し続け現在に至っています。
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▲パネライ
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2000年頃のGMT モデル。パネライオジナルムーブではなく、ETA のムーブントが搭載。軍用時計から脱皮し始めた頃のパネライには独特の味わいが魅力。
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ゆったりとした「時間」を求めて・・・
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現在では、パイロットでない人もナビタイマーを愛し続け、潜水夫でない人がサブマリーナを愛し続けています。それぞれの時計が持つ歴史と個性を愛しているようです。秒単位の精度を獲得した現在、決して時間の正確性を求めているようには思えません。
こう考えると、私達人間は本来、秒単位以上の精度は必要ないのだ、むしろ秒単位の時間に拘束されるのは体内時計に反しているのか、不快に思えるのではないかとも思えます。私達には分単位の精度の生活が実は「丁度いい」のではないでしょうか。そして、10年後もこの時計を持ち続け、愛し続けることができるかと考えると私の選択肢は決して電波時計ではなくて、歴史の中で切磋琢磨されたクラフトマンシップが反映された機械式腕時計になってしまうのです。腕に巻いている機械は秒単位の時間で私を拘束してほしくない。私の心臓と同じリズムを刻む相棒でいて欲しい。「丁度いい」ってそういうこと。個人的にはユニタスの低振動ムーブメントがゆったりとテンプを動かしている時の刻み方が一番性にあっていると思えてなりません。
レンジローバーを選んだ理由もそれに近いのかもしれませんね。